昨日、奈良から高知にもどってまいりました。
どうでもよいですが、私の居た時間ランキング(2019年現在)で、1位:奈良22年 2位:京都 17年 3位:高知10年
となっています。どうでもよいですね。。
さて、今回は前回に報告したクド造の応用編です。
これは肥前鹿島市にある、旧乗田家住宅です。農家ではなく、江戸時代後期の武家屋敷です。
玄関側から撮影したものですが、コの字型の屋根を把握できません。「L型じゃないか」と思ってしまいます。
これはコの字の背中側であり、Lにみえるのはコの字の一辺が延長されてカタカナの「ユの字型」になってしまっているからです。
応用ポイントとして、コの字を形成するウイングを適宜延長させることが可能ということです。
次に応用とは違いますが、この武家屋敷、壁の立ち上がりが非常に高いです。以前紹介した山口家住宅と比較すると、
その差は歴然としています(下が山口家住宅)。
その結果、茅葺き屋根が建築全体のなかでしめる割合が小さくなり、機能というよりは象徴としての屋根に転じているようです。
コの字で生じる屋根の空隙幅も広くなり、雨落としの片流れ屋根も相当な幅を持ちます。前回紹介したものと比較するとその幅広さはより
はっきりします(下が前回紹介した農家としてクド造。コの字の空隙幅はとても狭い)。
幅広になると、耐風性が落ちることが予想されますが、壁の頑強さ、そしてユの字にしたことで風向きに対抗するヴォリュームが出来たこと、
そして相対的に縮小した屋根の大きさで対応しているものと予測できます。
そして、幅広い雨落とし屋根は、当然のその内部に広い空間を用意します。
内部に目を転じるとベンガラに彩られた洒落たダイドコ空間となっていることがわかります。
また、茅葺きの寄せ棟屋根の一部には小さな2階空間を組み込んでいます。下の写真は2階の「子供部屋」です。
厳しい条件と制約のなかで成立した農家のクド造は武家屋敷となり、平面形状に自由度がうまれ、屋根は象徴としての役目に転じ、コノ字の
空隙空間も広さを獲得します。また屋根の中に2階がしこまれるなど、平面だけでなく立体的な自由度も増します。
その一方で原型が持つ根源性は当然うすまっていきます。
ところどころにある吹抜けからのぞく茅葺き屋根の暗がりが、根源性の「尾てい骨」のように、その原型の厳しさを静かにしめしています。
武家屋敷のほかにも街道町にたつ、町家としてのクド造など、他の応用例もこの近辺でみかけました。
「原型と応用」。
「原型なき応用」がそのバリエーションを無限に広げている現在建築を思う時、いまいちど立ち止まって考える必要を感じます。
佐賀で出会った民家たちには、そんなことを感じさせてくれました。
どうもありがとうございました。見たことが無駄にならないよう、改めて精進したいと思います。