こんにちは。渡辺菊眞です。
先週くらいから鳴き始めたニイニイゼミの声に、とうとうクマゼミの声も混じってきて、本格的な夏到来です。今年の日本はなんだかとても暑い夏になりそうです。たぶん八月から行くウガンダの方が涼しいと思います(赤道直下で高原ゆえに常に28度)。
さて、昨日7月13日で、僕が講師として参加してきた「三巨匠を場所にハメル。」即日設計ワークショップがひとまず終了いたしました。その模様はまた改めて報告しますが、このワークショップを通じて改めて感じたことがあります。今回はワークショップの制作模様からは少し離れて僕自身の所感をつづりたいと思います。
基本的に、彦根に設定したどの敷地もせまく、場合によっては不定形なので、三巨匠の作品を切断したり、圧縮したりしなくてはいけません。これは生物解剖のようなもので、その内部構造を注意深く観察、読み解かなければ、うまくいきません。単なる切断であれば、何処を切ってもいいわけで、解剖とは違います。
なので場所の物理的条件にまずは規制されて、巨匠建築を解剖する行為が始まるわけですが、解剖過程でようやく彼らがそこに仕込んだ技と、それら全てを統合している心臓部、そして諸機関の連携システムというものが見えてきます。
設計過程では、メインコンセプトを可能にする心臓部をいかにつくり、それをメインにすえながらも、最終的にそれがすぐには見えないように隠蔽していきます(少なくとも僕はそうしてます。心臓部露出だとそこを刺されてすぐに死んでしまいますから)が、その過程が彼らの解剖を通して見えてくるのです。
そして、その技術と心臓部の埋め込み方を感じながら近代巨匠の(空間構成)技術というものは、当たり前だけど、古代から連綿と続いてきた建築構成の技術の集積を素地にしているんだと、改めて感じたわけです。こういったことはこれからも同じように続いていくでしょうし、そうあるべきだと思います。
ということで、また改めて当たり前なことを考えました。彼らは巨匠だけど、近代という大きなパラダイムがあったからこそ、これまで集積されてきた建築技術の行使法をあたかも新技術として「開発した」かのように見せることができたのであろう(新たな工業技術が可能にした空間というものはもちろんありますが)。また、近代という社会変革の中枢から、彼ら自身の適正にフィットする部分を選別して、そこに建築空間の構成技術をうまくハメこんで、逆に「近代を誘導する建築」に見せることもできたのだろう。要するに、彼らが建築家として極めてすぐれた技量を持っていたのは当然にしても、世界的なパラダイムシフトがあったからこそ、彼らを巨匠たらしめたのだと感じたわけです。
普遍的な建築構成技術+@(この@の開発はたいへんやけど)と、世界パラダイムの変化。この二つがあるときに巨匠は生成されるようです。モダニズム以降、ポストモダン、デコン、ネオモダンと皮相な流行は流行ゆえにどんどん流れていきますが、そこにはモダニズム発生のときほどパラダイムの変化はみられません。というより、建築村においては、それを感受するアンテナがぶっ壊れているように感じます。デジタルとかいってますが、建築は結局いつまでもローテクなもんでしょうし(電脳空間で生きることができる人は、肉体を捨ててなお生きててください)。そうこうしているうちに、建築の世界で連綿と開発されてきた普遍的な技術ですら忘却され、それを全く手にしていない「建築戦闘力ゼロ系」が増えていきます。
また、ポストモダン以降「場所性の復権」などということが言われ初めたけど、それももはや形骸化して、でもやっぱり必要みたいな「効力ないけど唱えるのは必須な呪文」になってしまいましたが、その効力が本当はいかほどあるのかということも今回のワークショップで試してみたいことでした。
そのためには場所そのものをテーマにするよりは、全然別のプログラム(この場合は巨匠建築をハメルということ)を介入させて、逆にその力をあぶりだせるのではないかと思ったわけです。その効力については、まだ、はっきりとは言えませんが、ポストモダン以降の建築界で捉えられたきた「場所」の扱いだけでは、建築空間を大きく刺激するものには成りがたいと、ワークショップを通じて感じています。それこそ「場所の心臓」の所在をつきとめねばなりません。「場所の心臓」とやらも、何かもっと大きなパラダイムの中から見えてくるような気がしています。
さて、世界を見ると、あいかわらずの何の変化もない、、、、。うん?ほんまにそうでしょうか。えらくたいへんな変化が世界にありそうな気がしますが。となると、これまでの普遍的建築技術を可能な限り身につけ、クリティカルな「@技術の開発」を行えば、単なる流行を超えた建築が見えてくるかもしれません。そんなことを考えていました。
即日設計ワークショップで各自が掴みつつあるものは今後、つめて制作をし作品を完成させ、「三巨匠場所ハメ実行委員会」のみんなによって最終的に冊子にまとめられていきます。この建築解剖を起点におこりうる大きな成果に(自分自身の奮起も含めて)期待しています。