
こんにちは。渡辺菊眞です。
先のブログで報告したように、先日「三巨匠を場所にハメル。」即日設計ワークショップがひとまず終了いたしました。前回は僕個人の所感をつづったのですが、今回はワークショップの模様について報告したいと思います。第三回目は「ライトをハメル。」。ライトの名作、落水荘を彦根のとある場所にハメルわけです。その場所ですが、

こんな場所です。山もなければ、木も、もちろん渓流なんてどこにもありません。

この、ぽっかりと空いた場所、地図で確認すると一番主要な前面道路に面する家が歯抜けとなってしまって、本来はなかなか目にすることがなかったはずの街区の「あんこ」部分が明るみに出てしまった場所のようです(敷地はだいたい地図のピンクに彩色した場所です)。

かつてあった家の敷地境界を示しているであろうコンクリート残骸が敷地に残ります。このように家の歯抜けが生じた結果、

路地のどんつきが、この敷地に向けて通じてしまい、

ガレージも、この敷地のアクセスのようになってしまってます。

当然、家の歯抜けの部分自体がこの敷地への主要アクセスとなるわけで、これは上のような表通りに通じています。というわけで、この敷地は
1、表通りからのアクセス
2、裏路地からのアクセス
3、ガレージからのアクセス
といった、3アクセスが可能な敷地となっています。表通りはとりすました表情をしてますが、この裏はかつての花街であり、道も細く完全に裏の顔を持っいるわけです。
これらのことを頭にいれ、いつものごとく制作会場に戻ります。今回は前回の総評に時間を使ったため、30分短縮の5時間半の制作時間です。各々制作に入ります。

奥が美和さん。実は前回の「コルビュジェをハメル」のリベンジ会(通称「R会」)を前日の朝からやっていたため、この段階で既に24時間以上、設計制作をやり続けています。今回は元来は豊かな自然に向けて伸びていたテラスを内向きに伸ばすという「内外反転した落水荘」をもとの家屋の敷地割などから得られたグリッドにのせて計画していました。
手前が又吉くん。敷地周辺に散在するランダムな切妻屋根を地形とみなし、この地形形状に呼応する切妻状のテラスと、テラスや居室間がもっと自由な関係を持てるような部分空間の立体的接続を試みました。

これは中村くん。彼はいつも一人だけ壁に思い切り向かって制作に没頭します(「中村壁スタイル」)。今回は、敷地が表裏が捻れてまじわる場所としてとらえ、落水荘がそんな場をより加速させる「メビウス建築」となるような平面と断面が捻れた空間を構想しようとしました。
そんなこんなで、あっという間に制作時間は過ぎて、時間切れ、提出となります。


そして、中央テーブルに作品が集合。

さっそくプレゼン&相互批評に入ります。手前のピンクのTシャツが主宰の高橋渓くん。今回は落水荘の平面のいろんな場所に現れるL型構成に着目して落水荘を再構成しました。
奥で静かに模型を見つめるメガネの彼は同じく主宰の中浜くん。三つのアクセスの空間性に着目して再構成したアプローチと、低層の切妻屋根上に、敷地の主のごとく居座る落水荘を築き上げました。そこには自然と親和するといった落水荘の通例の言われ方に関する痛烈な批判精神が見えます。

同じく講評会のひとこま。手前の赤いのは僕。
奥で座ってメモ書きする青い服のイケメンは鮫島くん。水のない今回の敷地で、水のかわりに今回は人をテラスから水のごとく落とすイメージでのぞみました。テラスはどんどん地下に落ちていき、地下にいけば地下にいくほど人々はイチャイチャしだすという案配です。FALLING WATERならず、FALL IN LOVEとのこと(やや寒)。これはこの敷地のすぐそばが花街であることと重ねた上でのことだそうです。
ピンクの高橋くんの後ろで座って静かに講評の様子を眺めているのは山田さん。今回は多忙のため制作には参加できませんでしたが、なんとか講評会には参加してくれました。
そして、これらの写真を制作中も撮ってくれていたのが中くんです。
彼は、常に興味深い空間操作を編み出します。そして数種の空間操作を複合させる、その手さばきはには、未来の建築魔術師の姿が見えます。
こんな状態で、議論を重ね、あとはおなじみの採点です。落水荘に関してはコアとテラスに空間がはっきりと二分できます。ただ、テラスは関係をもちたい自然に向けて伸びるものです。この敷地ではダイレクトに関係を持ちたい要素は見あたりません。ここをどう解釈して空間を組み換えるのかがひとつのポイントです。
あとは敷地をどう読むか。もとあった敷地の家割りを考慮するのか、現在できてしまったスリーアクセスを積極的に計画に取り込むかの選択に迫られます。
最後に、落水荘で圧倒的存在感を放つ地形をいかに補填するか。ここも重要になります。
これらの問題点すべてに絶妙な回答をあたえるのはなかなか大変です。下手すると計画も拡散気味になります。そんな問題点を含めて議論を重ね、ありうべきハメ方を模索するわけです。
これを終えるともうクタクタです。この後懇親会へとなだれこみ、みんなや僕の恩師でもある布野修司先生と合流します。この場も大事な意見交換の場となります。そして各自泥酔し、爆睡し、、、しかし、明日があったのです。

この日までに自主的に行われた、ミースとコルビュジェの「R会」作品を前にみんなで講評します。朝9時に。だいぶん死にかけな体調でしたが、さすがに「R会」、これだけ巨匠作品と向き合っていると彼らの作品の心臓部がよく見えてきます。それゆえ、その心臓をつくクリティカルな操作法までが見えてくるのです。これは大きな成果です。個々の作品の内容に関してはここでは割愛します、、。

そして昼食をはさんで、こんどは三巨匠すべてをハメた上での総評会。何故か琵琶湖に移動して議論します。「R会」での成果もあり、巨匠には心臓部があること、そしてそれに応じた心臓の刺し方と、その果てにある新空間生成の可能性が紡ぎ出されていきます。ここで写真撮影の役割がチェンジしたため中くんがようやく登場しています。手前中央向かって右の白いTシャツが中くんです。
時間は刻々と過ぎ、夕暮れ。議論はここでひとまず終了です。個々に掴みかけたものを抱きながら、夕暮れの琵琶湖に向かって一本締め。
たぶん、ようやくここからいろんな展開が始まります。そんなことを個々の胸に刻みながら、まずは三ヶ月の全課程が無事修了。そんな七月十三日でした。

追伸、向かって左側から二人目は林くん。前日の「R会」激務がたたって過労で起きれず、ライトをハメれずじまい。その自在かつユニークな時空の操りは彼ならではのもの。
コルビジェに祟られました。