さて、早速感じる違和感と、なんだか漂う嫌な感じ。そう、それは「Dって何やねん」ってことに尽きます。というわけで今回は、Dについて御説明させていただきます。新年早々、嫌な感じもそれこそ嫌でしょうから。
そもそも、なぜDなのか?これは何かの略称なのか?略称でないとしたら他のアルファベットでは駄目なのか?まずはこんなところから始めたいと思います。
さて、Dは特定語句の略称ではありません。もちろん、まったく意味ないこともありません。Dとはズバリ「何かをつきつめて、つきつめて、その果てにあるはずの、それでもやはり、掴みきれない、何か」です。、、、なんだかよくわかりませんね。少し話の流れを変えてみます。
たとえば、アルファベットのXがあります。これは数学の方程式の未知数としてもお馴染みで、それが原因なのか未知なるものを象徴するものとしてよく使用される記号です。未確認生物Xだとか。その意味ではこの記号の方が本当は先のDの意味によく合致するかもしれません。しかしこの記号、あまりにも「未確認なもの」や「何か結果がわからない壮大なこと(例「○ジェクトX」)」をほぼ(イコール付きで)想起させてしまい、逆に不思議さがありません。
ではA、B、Cなどはどうでしょうか?これもいけません。「A級」「B級」「C級」とかいう言葉があるようにこの三つには常に明解な上下関係的イメージがともなってしまいます。ではそのお隣さんのDはどうでしょう?まれに「D級」とかいう言い方もありますが、その場合も「C級」の下というよりは、何かそんなことを超越したところにある印象があります。でも、Dのお隣さんのE、さらにはF、G、H、、とかになると、「もうどうでもいいや」って感じになっちゃいます。そういう意味でなんだか特殊な(通常のヒエラルキーのある記号と、置き換え可能などうでもいい記号たちの境界的な)位置にDはあるのです。
このように何か特別なことをいちばんよくあらわすものとして栄養ドリンクの「○ポビタンD」があります。「ファイト一発!!」でとてつもない力が沸いてくるアレです。何か根拠わかりませんが、おそらくその秘密はDにありそうな気がしてくるものです。そんな身近ながら、超越的不思議な魅力をDという記号は備えているのです。
長くなりましたが、我がD研究所の話をします(やっとか)。D研究所の正式名称はD環境造形システム研究所です。では直接的に研究の対象となる「造形システム」ということから考えてみます。
「造形システム」とはひらたくいえば「かたちのしくみ」です。ですので何か「目指すもの」を、目に見える「かたち」を組み合わせたり、並べたり、さまざまな方法を駆使して創出することが研究目的となります。要するに「いかに「かたち」を構成すれば目指すものが出現可能か」を研究するわけです。
そこで目指すものです。まず「環境」ですが、これは自らをとりまくさまざまな外部環境(「室空間」「建築空間」「都市空間」それらが重なる「風景」)と内部環境(「心の空間」とでも呼べようか)の双方を含みます。
では「D環境」ですが、これは「D が潜むような環境」すなわち、「まとまりある意味を担った環境(=世界)の、はざまに、世界を超える何か(=D)が見える、少し不思議な環境」ということです。
ですのでD環境造形システム研究所では、「かたち」の「しくみ」を研究し、そのことを通してさまざまな環境を創出する方法を開発しながら、それでもそこを超えていくような「何か」(=D)が見える世界を構築する研究所なのです。
例えば、ある一件の家屋を作るとします。家屋に直接的に要求されるのは、そこに住む人が欲求する生活空間を作りあげることです。もちろん、その欲求には完全に応答する「かたち」の「しくみ」で家屋を形成します。しかし、その欲求を完全に満たしているにも関わらず、さらにそれを超えるような別世界が顔を覗かせる家屋を当研究所は創出します。しかもなんだか偶然そうなったのではなく、それが顔を覗かせてしまう(=要は「Dのある」)ような「かたち」の「しくみ」で、それを創出するのです。
住む人が欲求する生活空間を超える環境。これは単に作り手のエゴではありません。想定できる欲求を超えるところにあるものは、自らの描く世界を相対化させます。そのことによって、今ある欲求、今ある自分を超えた世界の中にある自分を思いめぐらすことができます。そんな不思議な環境に身を置くことができたとき、はじめて見知らぬ他者とともにある、しかも単なる卑近な現代を超えた魅力ある環境が創出されるのではないでしょうか。単一の合目的環境を超えた環境形成を目的とし、その開発研究を常に怠らず実践を果たし続けること。これこそがD研究所の存在意義であり、しかも近代合理主義の20世紀を終えて21世紀を迎えたこの時代を牽引するひとつの在り方ではないかと思っております。
とんでもなく、なが〜い導入となってしまいましたが、次回からはより具体的な研究例を示しつつ、Dの世界をDの扉からお届けしようと思います。
よろしくお願いいたします。